体験レッスンにお越しいただく方で最も多いのが「中音域のピッチのコントロールが苦手」というお悩み。
例外なく僕も苦手です(笑)
音程が高くなればなるほど難しそうなのに、何故ちゅう音域なの?
それには声帯の筋肉が大いに関係しているんだよ
もちろん、超高音域になれば、めっちゃ頑張って発声しないといけないのでピッチのコントロールどころではなくなる、という人も多いと思います。
が、本人も気づいていないだけで、ほとんどの人(ボイストレーニングを経験していない人)が、中音域でのピッチのコントロールが上手くいっていません。
今回はその原因と改善、気を付けるべき点を解説していきます。
ジウコトモニタ(谷本恒治) クリアボイスミュージックスクール代表 数多くのプロミュージシャンのボイストレーニングを担当し、 TVなどでも紹介される。 発声のメカニズムなど確かな知識に基づいた的確な指導で、 現在も全国各地から受講生が集まっている。 |
この記事で分かること
中音域でのピッチのコントロールが上手くいかない理由
トレーニングで改善していくポイント
何故中音域でのコントロールが難しくなる?
そもそも音程はどうやって決まるのか?
まず、中音域のコントロールの前に、そもそもどうやって音程をコントロールしているのか、(ぼんやりでおk)知っておく必要があります。
声帯は甲状被裂筋、声帯靭帯、粘膜の三層からなり、ある程度の“張り”と“ゆとり”があることで呼気により振動し、音を発します。
“張り”と“ゆとり”??
筋肉は収縮することで“張り”を作ります。腕の力こぶをイメージすると分かりやすいです。
肘を曲げると腕(上腕二頭筋)が盛り上がりますよね?これが筋肉が収縮した状態です。
ここで重要なのが、収縮するだけで多少の力こぶは出ます(個人差はあれど)。
「カッチカチやで~!」というギャグがありましたよね?
肘を曲げた上に力を込めると、力こぶはカッチカチになります。
ところが声帯の筋肉でいうと、カッチカチだと呼気によって上手く振動してくれません。
ただ肘を曲げるだけで力こぶを「カッチカチやで~」と叩くとプルルンと揺れると思います。
これが“ゆとり”です。
このように“張りすぎず”“緩みすぎず”の状態だからこそ、声帯は十分な振動を得られるのです。
ここ、結構ボイストレーナーの方でも勘違いしている方が多いです。
「閉鎖」「閉鎖」をやみくもに連呼して、声帯がカッチカチやで~、になっている生徒さんが非常に多いです。固めたらダメです。
“ゆとり”があるからこそ音程を自由に操れる
さて、次に音程を司る筋肉の話です。
これは輪状甲状筋といって、間接的に声帯を引っ張って伸ばす役割をする筋肉です。
ギターやバイオリンの弦のようなイメージです。引っ張って伸ばすことで振動が早くなり、その振動の早さによって音程が変わります。
なのでここでも「カッチカチやで~」だと上手く引っ張れず、音程のコントロールが難しくなります。
固める=振動しにくくなる、音程を作りにくくなる、しかも振動が小さくなる分、声も小さくなる。何一ついいことはありません。誤解せぬように。
この辺りをもう少し詳しく知りたい方はこちらの記事を併せてお読みください
中音域で何が起こっているのか?
声帯の構造、音程の作り方はなんとなく分かったわ。
で、何故中音域でのピッチのコントロールが難しいの?
前置きが少々長くなったけど、それでは本題に入ろう
簡単にいうとこんな感じ。
声帯が収縮する(肘を曲げていく)→筋肉が分厚くなり、振動もゆっくりになる≒チェスト
声帯が引っ張られ伸展する(肘を伸ばしていく)→筋肉が薄くなり、振動も早くなる≒ヘッド
しつこく腕に例えると、買い物袋を、肘を伸ばしきった状態で持ってみましょう。
そんなにしんどくないですよね?
今度は肘を曲げきった状態で持ってみましょう。
これもそんなにしんどくないですよね?
では肘を90度にして持ってみましょう。
結構しんどくないです?
ということが声帯で起こっているんです。
もう少し詳しく教えて??
綱引きと同じ原理で、どちらか一方に力が偏っている時は比較的安定した(楽な)状態です。
が、双方の力が拮抗していると、互いに腕がプルプルしてきますよね?
声帯でも、収縮しようとする力と伸展させようとする力が拮抗した状態になると、「どっちに寄っていったらいいんだろう…」という感じで、不安定になります。
これが中音域で起こるんです。
これを「ブリッジ(換声点、パッサージヨ)」と言います。
伸展させようとする力に委ねすぎて張りを作る筋肉が急激にサボる=声がひっくり返る、上ずるなど
張りを作る筋肉を使い過ぎることで声帯を伸展させきれなくなる=張り上げなど
これがピッチのコントロールが難しくなる原因です。
具体的な改善方法、気を付ける点
物理的改善方法
まず物理的にどんなことをしていけばいいのか。
超シンプルに、広いスケール(音階)を使ってチェスト(低音、つまり収縮が優位)⇔ヘッド(高音、つまり伸展が優位)を行き来する運動をおこないます。
早くしたりスローにしたりしながらブリッジを“通り過ぎる”ことで、収縮と伸展のパワーバランスを整えます。
こんな感じのスケールが一般的です。
そこから慣れてきたらブリッジ付近でステイするようなトレーニングを加えていきます。
こんな感じのスケールで。
感覚的な意識
次に感覚的な意識をご紹介しましょう。
発声器官を扱うトレーニングに「感覚だよ」というのは少々荒いような気がしますが、いくら理屈を並べても結局最後には「その時どんな感覚か」が重要になるので、感覚に頼るのもあながち間違いではありません。
で、感覚的な意識は“響きを上げる”ということ。
響きを上げる、って…??
しつこく、「感覚」とは言いながら、ボイトレ理論でも「チェストボイス」「ヘッドボイス」という言葉が出てきます。
もちろん声を出して胸が響くことも頭が響くことも、胸から、頭から声が出ることも物理的にあり得ません。
響く(共鳴する)、というのは、空間の中で空気が振動して音が増幅することを言います。
アナタの頭や胸は空洞ですか?あくまでも「雰囲気」です
ではなぜ「チェスト」「ヘッド」というのか。
低音域では(振動率はさておき)声帯が短く収縮することで分厚くなり、ゆっくり振動します。
分厚い物質が振動することでその周辺(喉周りや鎖骨辺り)が『共振(共鳴ではありません)』します。
それを感覚的に『胸が響いた声=チェストボイス』と言います。これが響きが下の方にある状態。
もちろん、声帯で鳴った音はその上の空間を通っていきます。その先に上顎があり、上顎に当たって『共鳴(口腔内)』します。そして上顎と頭蓋骨は繋がっているので、頭蓋骨もかすかに『共振』しています。
音程が上がるにつれて、声帯は薄く伸展していき、胸で感じていた響き(感覚)はなくなっていき、「あれ?そういや頭が響いてるぞ?」と気づき始める(物理的に呼気が強まる、周波数が高くなると固い物質が共振する、という要因はありますが、詳しい話は置いておいて)、それが『頭が響いた声=ヘッドボイス』と言います。これが響きが上の方にある状態。
この感覚を利用し、中音域にさしかかる際に「響きを上に…」という意識をします。
具体的なトレーニングとしては『ビー』という発音。
響きが重くなる要因の一つに、「喉を下げすぎる」「口を開けすぎる」というのがあります。
特に喉を下げようとする際に、大抵の人は舌の付け根(顎舌骨筋)に力が入ります。
試しに顎の下を触りながら、「あー」と声を出し、その状態で触っている所に力を入れる(舌の付け根の力で指を押し返す)と、音程が下がると思います。
これを防ぐのに「イ」の母音を使います。
さらに「B」の破裂音で響きを前に(唇で弾くのでその近辺で響く感覚が得られると思います)持ってくる、というトレーニングです。
実際のレッスンの様子をご覧ください。
まとめ
中音域で音程のコントロールが難しい理由は…
声帯に張りを作る筋肉と声帯を伸展させる筋肉のバランスが取りにくいため
具体的なトレーニング方法
広いスケールを使ってブリッジを行き来する、感覚的に響きを上げる
もちろん原因は個々によって様々です。上記のトレーニングが上手く当てはまらない場合は迷わず直接トレーナーの指導を受けることをお勧めします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ジウコトモニタ