実際にあったご相談です。
喉が上がるのが気になります。
声のトーンには満足しているのですが、とにかく喉が上がってしまって…
なので今は胸骨甲状筋トレーニングをやっています
大変申し訳ないですが、典型的な「ネットの情報に踊らされている」パターン。
トレーニングをしながら「うわ~、今胸骨甲状筋に効いてるわ~」なんて感じられることは100ありません。
で、実際に歌声を聞かせていただきました。
歌声を聞いた後のアドバイスは…
まず、そこまで喉は上がっていないので気にする必要もないし、今の発声の状態から言うと胸骨甲状筋トレーニングは全く逆効果、発声は悪化するんで、今すぐやめましょう
実はこの方のケースは、たまたま僕と出会って、たまたま企画として「発声無料相談」を開催して、たまたま送ってくれて、たまたま僕がお悩みとお声を聞けたので最悪のケースを免れただけで、自分がどうなっているか判断できず、ネットの「“喉下げましょう”、“腹式呼吸で”って言っときゃアクセス増えるだろ」という安易な記事に踊らされてとんでもない発声になっている人は腐るほどいると思います。
結論:喉は下げなくていいです
この方のケースで解説していきましょう。
ジウコトモニタ(谷本恒治) クリアボイスミュージックスクール代表 数多くのプロミュージシャンのボイストレーニングを担当し、 TVなどでも紹介される。 発声のメカニズムなど確かな知識に基づいた的確な指導で、 現在も全国各地から受講生が集まっている。 |
この記事で分かること
喉を下げるという無意味なトレーニングメソッド(極論orz)
正しいトレーニングメニューの考え方
この方の現状
まずは発声のタイプを分類
この方の歌声を聞かせていただいて、気になるポイントは以下。
(本人のご質問内容以外の部分も含む)
・プルチェストタイプ
・母音がワイド
・ピッチが不安定
まあ、全部「〇〇だから△△」という感じで繋がっているんですが。
この情報だけなら、熱心なジウ研ゼミ会員の方は、「えっ!?必要なのはラリンクスダウン(喉頭を下げる)じゃないっしょ?」と瞬時に思うハズ。
これが、ラリンクスダウンのトレーニングを重ねた結果なのか、この状態からラリンクスダウンが必要だと思ってらっしゃるかは分かりませんが、いずれにせよ、この状態で今もなおラリンクスダウンのトレーニングをやっていた、ということは確かです。
※胸骨甲状筋は鎖骨から甲状軟骨に繋がっており、この筋肉の強化で喉頭を引き下げる力を使えるようになる、というのがラリンクスダウントレーニングです。
改善方法を提案
プルチェスト(チェスト≒地声が強い)ゆえに、その音程に必要な適切な声帯のテンションよりも分厚く使っているため、その分厚い声帯を振動させるために必要以上に呼気も必要になり、下からの呼気が強くなると声帯は頑張って受け止めようと分厚くなり、…
と悪循環になっています。
結果、息を吐きたいゆえに無意識的に母音が広くなり(口を大きく開けたくなる)、ピッチも不安定になります。
なので、まずは呼気圧を安定させ、響きを上に挙げるトレーニングが必要です。
※響きを上げる、というと感覚的な表現ですが、声帯が分厚くなればなるほど、その周囲に振動が伝わりやすくなり、首や鎖骨あたりが震えてくる=これを響きが重くなる、と言います。
なので響きを上げることで声帯を分厚く使い過ぎないようにするのです。
間違っても「地声が強いから裏声の練習をしましょう」にならないように。
何故喉を下げるトレーニングがいけないのか?
喉は上がるようにできています
喉頭は他の骨と違い、関節で繋がってはおらず、宙ぶらりんな状態になっています。
いわゆり“引き上げ筋”と“引き下げ筋”です。
特に高音に差し掛かるにつれて、茎突咽頭筋などが喉頭を引き上げます。
喉頭を引き上げるメリットデメリットについてはこちらをご参照ください。
簡単に言うと、「上がりすぎは音色に影響する、多少なら高音発声に有利になる」という感じです。
なんでもかんでも「下げましょう」が正義ではないのです。
この方が喉を下げる練習を中止すべき理由
それではこの方のケースを見てみましょう。
当然個人情報なので、ここに声を添付する訳には行きませんが、最初に述べた発声のタイプをご参考に。
ピッチが安定しないほど呼気が安定していない状態で喉頭を引き下げるとどうなるか。
喉頭が下がる→喉が開く
という風にできています。
つまり、
空気の通り道が広くなる→より息は流れ出て行く→頑張って喉で止めようとする→喉頭が上がる→でも喉頭を下げるトレーニング
ということを行っている状態です。
これは「コケても手を付かない練習」を繰り返し、コケる度に顔面を強打して、「これに耐えうる強い顔面を作るぞ」とやっているようなものです。
コケないようにすればよくね?
喉を下げなくていい最大の理由
最初のお悩み分に戻ってみます。
喉が上がるのが気になります。
声のトーンには満足しているのですが、とにかく喉が上がってしまって…
なので今は胸骨甲状筋トレーニングをやっています
「声のトーンには満足している」
ならよくね?
喉頭のポジションというのは音色に影響します(厳密にはそれだけではないですが)
音色に満足しているなら、それがこの方にとってベストな喉頭のポジションということです。
もう一点、「舌の力みが…」というのもあったのですが、これは喉頭が上がることとはあまり関係ありません。
先述のとおり、呼気が強い→喉で止める、でも止めると声が出ないので、それを舌の力で吐き出そうとしている状態です。
舌で息を吐く?
残念ながら、コレを自覚できる人は(多分)皆無です。
そもそも日本語の「は」という発音がベロで息を吐く(人が多い)ので
これは長年トレーニングを続けていき、息の使い方を安定させれば自然と気にならなくなるので、ここでは解説は割愛しますが、何せ喉頭が上がるから舌に力が入る訳ではありません。
なので前半に書きましたが、この方に必要なのはラリンクスダウンではなく、呼気の安定、響きを上に上げることです。僕も音色はいいと思うので、なおさらラリンクスダウンは無意味です。
まとめ
喉を下げる練習は必要か?
全体の筋肉バランスを取るために使い慣れておく必要はあり
だけど歌う時に喉を下げる必要はない
そもそも本当に今、喉を下げる練習が必要があるのか、現状を見極める
あえてラリンクスダウンに必要な練習方法を挙げるならこちら。
ネットの情報を鵜呑みにせず、正しい知識と正しい練習方法を知る必要があります。
最後までお読みいただきありがとうございました。