自宅でボイトレをやろうと思うんだけど、何からやればいいの?
意外と知られていないし、聞く機会がないよね。
今日は「正しいボイトレの順番」を解説していこう
ひと口に「ボイトレ」と言ってもめちゃくちゃやり方はいっぱいあるし、もっと言えば声を出しやすくするための姿勢作りも「ボイトレ」の一環ですよね?
じゃあ、何からやればいいのか?どういう順番で練習を進めていけばいいのか、意外と知られていません。
いや、適切なアドバイスをした記事があまりない、という方がよいかも分かりません。
もちろん、一人一人発声の癖や特徴、骨格や筋肉量の違いから、十把一絡げに「これが正しいやり方です」というものは存在しません(これをひとまとめに「これです」とやってしまうことが「ボイトレしても上手くならない」一番の原因なんですが…)
今回は「リスクを減らす」、「失敗のリスクの少ない」練習の順番をご紹介したいと思います。
ジウコトモニタ(谷本恒治) クリアボイスミュージックスクール代表 数多くのプロミュージシャンのボイストレーニングを担当し、 TVなどでも紹介される。 発声のメカニズムなど確かな知識に基づいた的確な指導で、 現在も全国各地から受講生が集まっている。 |
この記事で分かること
適切な(安全な)ボイトレの順番
ボイトレを自分でおこなう際の注意点
兎にも角にも準備運動
発声、歌も筋肉を使います。ストレッチは必須です
以前、Twitterで「プロたるもの、何の準備運動もせずにいきなりベストな歌声が出せて当たり前」と、何ともクレイジーな投稿をしているボイストレーナーがいました。
彼はおそらく、大谷翔平が寝起きでいきなり165kmのストレートを投げると思っているのでしょう。
発声にもたくさんの筋肉を使用します。
- 呼吸筋(外肋間筋・横隔膜)
- 呼吸補助筋(腹直筋・腹横筋・腹斜筋・広背筋・脊柱起立筋・胸鎖乳突筋)
- 内喉頭筋(声帯筋・甲状披裂筋・輪状甲状筋・披裂筋群)
- 外喉頭筋(ありすぎるので割愛)
- その他(舌、顎、軟口蓋、唇、頬)
陸上選手がいきなり走ったら?
野球選手がいきなり投げたら?
格闘家がいきなりスパーリングしたら?
では、シンガーがいきなり歌ったら?
しっかりと使う筋肉の弛緩、使わない方がいい筋肉のリラックスを作ってからトレーニングを行うべきなのは当たり前です。
しっかりと「声を出しやすい状態」を作ってから練習しましょう。
姿勢、呼吸の安定を
次に姿勢、呼吸の安定です。
最近僕は、「歌唱呼吸」と名付けました。
正しい姿勢で正しい呼吸を行うと、精神的にもリラックスし、より安定した声が出せるようになります。
この「歌唱呼吸」とは、いわゆる「腹式呼吸」の一環なのですが、残念なことに色々記事や動画を見漁っても、ほぼ100%に近いボイストレーナーが腹式呼吸の指導方法を間違えています。(いや、その方が無知な人を釣りやすい、とあえて間違えた情報を流布しているのかも分かりません。サイゼのピザを「これが本場のピッツァだよ」というような)
歌、発声に必要なのは空気の「量」ではなく「圧力」です。これを10年以上も散々言ってきました。(おかげで下手に腹式呼吸について触れるトレーナーは減ってきましたが)
風船をイメージしてみてください。
たくさん空気が入った方が風船は固くなりますよねこれが圧力のかかった状態です。
圧力がかかった状態の空気は、出て行く時に鋭くビューッと出て行きます。(風船だとブーッと音が鳴る)
この鋭い空気が声門の間を通り抜けることで声帯は激しく振動し、音が鳴ります。
下品な話ですが、オナラの音が出るのもこの原理です。これをベルヌーイの定理といいます。
ただ、たくさん空気を取り込んだものの、必要以上に抜けていくと、圧力は維持できなくなります。風船や浮き輪のどこかに穴が開いた状態です。
なので圧をキープするための体の支えが必要になります。
こうすることで安定した呼気を作り、安定した歌声を作ることができます。
簡単に言うとたくさん吸ってなるべくキープ、です。
このたくさん吸う時には絶対に胸式呼吸が必要不可欠になります。
なぜなら、人は普段ほぼ腹式呼吸を使って呼吸をしているからです(いまだにこれを知らない人もいますが…)
普段よりたくさん息を吸おうと思ったら、普段使っていない部分も使わないといけませんよね?
なのでしっかりと肋骨を拡げて空気を取り込みます。
ただ、使い慣れていない分、萎みやすい部分でもあります。
肋骨が萎むと、歯磨き粉のチューブを真ん中から押すような形になり、しっかりと呼気を使うことができません。
なので肋骨を拡げたままキープ(これを体の支えと言います)、その状態で息を使い続けると必然的に腹式「だけ」で息を吐かざるを得なくなります。
これが歌唱呼吸です。
腹式呼吸というのは、お腹から押し出すことを言うのではありません。
最大限に息を吸い、効率よく使うことが重要です。
声帯にも準備運動が必要
なるべく声帯に負荷がかかりにくいエクササイズから
目が覚めてから筋肉が起きるまで大体3時間程度かかると言われています。
発声器官も例外なく、様々な筋肉で形成されているので、起きてすぐ声を出すのはあまりオススメしません。
当然、3時間経ったからいきなりハチャメチャに声を出していいかというと、そうではありません。
音域もそうですが、音色的にもなるべく筋肉に負荷がかからないエクササイズから始めるのが正解です。
発声に関わる主な筋肉は、声帯を閉じる筋肉、音程を変える筋肉、喉頭を動かす筋肉などです。
注意点は以下です。
・喉頭の動きがなるべく少ない発音で
・“声感”をあまり入れない音色で
・音域を徐々に広げていく
“声感”っていったい何??
僕がよく使う表現ですが、「より地声に近い音色」「声帯の圧着を強めた音色」というニュアンスっす
例えばため息。
「は~…」
これを「ハ」「ア」と、わざわざ“発音”する人はいないですよね?
より自然に漏れた声に近い状態、というイメージで大丈夫です。
より安全にスタッカートで
これは常々僕が推しているトレーニング方法なんですが(その割に他の記事でほとんど触れられていないんですが)、最初のステップではスタッカート練習をオススメしています。
スタッカートとは、伸ばさず一瞬で音を切る発声のことです。
スタッカート練習には次のようなメリットがあります。
・一瞬で音程を取らないといけないのでピッチの安定につながる
・発声前にしっかりと準備ができていないといけない(呼気と閉鎖のバランスなど)
・音を伸ばさない分、声帯の摩擦が少なく、負担を軽減できる
スタッカートの練習法に関しては別の記事で詳しく書いていますので、是非ご参照ください。
自分で練習する時の注意点
クイズ・ボイトレで一番使うのはどこ?
いきなりですが、問題。
ボイトレで一番使う部位はどこ?
えと…声帯…?
ブブー。正解は「脳」
えっ!?えっ!?どういうこと!?
ボイストレーニングで重要なのは、「何をするか」ではなく、「それをどうやってするか」です。
我々ボイストレーナーは(まともなトレーナーであれば)生徒さんが発声、歌唱している時に以下のようなことを見聞きしています。
・ピッチ(音程)
・リズム
・母音(くちの開け方、舌の位置、顎の力など)
・子音(息の使い方、閉鎖とのバランス)
・体の力み
・呼吸
・声門閉鎖
・声帯の厚み
・声量
他にも細々あるんですが大まかに。
もちろん、レッスンでは生徒さんは声を出す側、トレーナーは聞く側です。
生徒さんも気を付けながら発声しているにしても、ある程度はトレーナーが随時指摘していきます。
これを自主練では一人二役しないといけないのです。しかも「聞く側」はトレーナーレベルでないといけません。
というと、独学でボイトレをすることが不可能であることが分かっていただけるかとは思いますが、それを言ってしまえば身も蓋もないので…
なのでせめて、「ちゃんと音程、リズムは取れているかな」「発音はできているかな」くらいは気を付けましょう。
目的を明確にすること
もう一つ自主練で重要なことがあります。
それは、目的を明確にする、ということです。
「腹筋を割りたい!」と思って腕立て伏せをする人はいないですよね?
(厳密に言うと多少割れますが)
ボイトレでも「何を改善したいのか」「どの部位を鍛えたいのか」を明確にし、「そのために何が必要なのか」を選択する必要があります。
自分の課題を客観視できていないまま、ネットの情報だけを鵜呑みにして、「なるほど、ネイネイ言ってりゃいいのか」と続けても、発声は悪化の一途です。
そもそも自分の課題を客観視できれば、それはもうボイストレーナーレベルですが…
(それを言ってしまえば身も蓋もないので…)
まとめ
・姿勢作り、呼吸の安定もボイトレの一環
・トレーニングはなるべく負荷の軽いエクササイズから
・「何をやるか」ではなく「どうやってやるか」
ちらっと書きましたが、発声を悪化させたくない方はきちんとプロのレッスンを受けてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ジウコトモニタ