ミックスボイス

ボイストレーニングのいたってシンプルな考え方

ボイストレーナーをやっていて、非常に多い質問がこの類。

Aさん

ミックスボイス発声時の状態はどうたらこうたら…

Bさん

ライトチェストでどうたら…フリップがどうたら…

ジウコ

知識に惑わされすぎじゃね?

ボイストレーナーをやってきて、例外なくやたらと知識を詰め込んで専門用語を連発してくる方に限って全然発声は上手くいってないです。

なぜか。答えは簡単です。

人は歩く時に、

「大腿直筋、大腿四頭筋を使って下肢を振り上げ、大殿筋でその振り上げた下肢を前に出し、その際、体の軸を保つために腹直筋と脊柱起立筋群のパワーバランスが必要で、足の裏が地面に接地する瞬間に下腿三頭筋に力を入れて踏ん張って…」

って考えて歩くと歩けないからです。

再度言います。

やたら専門用語を使いたがって、知識に捉われている人で歌、発声が上手くなった人を20年で一人も見たことがありません。

今回はシンプルなボイストレーニングの考え方についてお話していきます。

ジウコトモニタ(谷本恒治)
クリアボイスミュージックスクール代表
数多くのプロミュージシャンのボイストレーニングを担当し、
TVなどでも紹介される。
発声のメカニズムなど確かな知識に基づいた的確な指導で、
現在も全国各地から受講生が集まっている。

この記事で分かること
発声理論の無駄さといったら…

シンプルで効率の良いボイストレーニングの考え方

拗らせたら「こんにちは」

こんにちは

スポーツ選手がよく言う「体が勝手に反応した」

インタビュアー「いやー、ナイスホームランでした」

選手「体が勝手に反応しました」

一度は聞いたことのあるセリフですよね?

“体が勝手に反応する”というのはどういう状態でしょうか?

これは本当に“勝手に”反応している訳ではなく、“繰り返しトレーニングすることでその動きが染みついている”ということです。

私たちが歩ける、話せる、というのは、(ほぼ絶え間なく)日常的に使う動きだからです。

随意筋と不随意筋

ジウ研ゼミ会員

でも先生、発声も体を動かす運動と考えれば、どこがどういう風に動くか理解した上でトレーニングしないといけないんじゃないですか?

ジウコ

とても良い質問だね。それでは解説していくよ

ミックスボイスは声帯を収縮させて張り(とゆとり)を作る甲状披裂筋と、声帯を伸展させて音程をコントロールする輪状甲状筋とのパワーバランスです。
また、ベルティング発声時には、声帯を伸展させる筋肉により拮抗するために、咽頭収縮筋群、特に輪状咽頭筋が作用している(のではないか)と言われています。

甲状披裂筋は声帯に隣接していて、喉仏の裏側から、後ろの披裂軟骨というところに繋がっています。
輪状甲状筋は喉仏のある軟骨、甲状軟骨とその下の輪状軟骨を繋いでいます。
この軟骨群を喉頭と言い、その喉頭の裏側に咽頭収縮筋群があり、その一番下の部分を輪状咽頭筋と言います。

ここでみなさん、軽い運動をしてみましょう。

指を曲げてグーの形を作ってみましょう。

次に指を開いてパー。

繰り返してグー、パー、グー、パー。

では次は足踏みをしてみましょう。

足踏みをしながら腕を大きく振ってみましょう。

バンザーイ。

前屈、後屈。

首をグルングルン。

今、ほぼ全身動かしましたよね。ほとんどの人ができたと思います。

では、甲状披裂筋を収縮させてみてください。

次に輪状甲状筋に力を入れて。

最後は輪状咽頭筋の力で甲状軟骨を後ろに引っ張ってみましょう。

僕の予想では一人もできなかったのではないでしょうか?

筋肉には随意筋と不随意筋があって、先ほどのグー、パー、などは随意筋、心臓など「意図的に動きをコントロールできない筋肉」を不随意筋といいます。

もちろん発声器官に関わる筋肉は“分類的には随意筋”ですが、「声を出す」という動作の元で「ほぼ無意識的に」動いている筋肉だと僕は考えます。

ジウ研ゼミ会員

じゃあ、「声を出す練習をしよう」でよくね?

ジウコ

そういうこと

考えて歩いていますか?

冒頭の「歩く」という動き。

考えてますか?

では、ここでみなさんに簡単な“ボイストレーニング”をしていただきます。

ハー、とため息をついてみましょう。

次にそれを鼻で、フンー、とため息をついてみましょう。

おそらく今、95%くらいの人がため息をつけていません。

「そんなん、聞いてないのに分かる訳ないやん!」

いや、残念ながら分かります。何故ならレッスンでこれをやると、できる人がいないからです。

どうできていないのかはレッスンにお越しください。。

僕のボイストレーニングの考え方は「本来こうやって体を使っているよね」を活用しよう、というものです。

歯を磨いてクチュクチュ…ペッと吐き出す、スイカの種をプッと飛ばす(普段やりませんが)
これが「P」の発音。
うるさい人がいたら「シーッ!」とやります。
これが「sh」の発音。
さらに言うことを聞かず、まだうるさければ「シーッ!」を強めます。
これが空気の圧力。(声を大きくするのは息の量ではなく圧力が必要)
ハッハッハッと爆笑する。
これが「h」の発音とスタッカートに必要な腹直筋の動き。
風船を膨らませる、キーボードの埃をフッと飛ばす。
これが腹式呼吸。
あくびをする、うがいをする、えずく。
これが軟口蓋の動き
「今日は宿題があります」「え~~~~(音程が上がる)」
これがポルタメント。
残念な時に「あーあ」
これがビブラート。
咳をする。
これが声門閉鎖。
痰が絡んで「ん”ん”っ」と咳払いをする。
これがデスボイス。
道端でオッサンが「カ~~~ッペッ」と痰を吐く。
これが声門上圧。
(女性は)ジェットコースターでキャーッと絶叫する。
これがホイッスルボイス。
何かに「ふ~~ん」と感心する。
これが(感覚として)鼻腔共鳴。とポルタメント。

では、トレーニングしていきましょう。

というと途端にみなさんできなくなります。

なので僕はよくレッスンで、発声を拗らせ始めたら、「“こんにちは”って言ってみ?」と言います。「言えるっしょ?じゃあもっかいエクササイズ行ってみよう」みたいな。

シンプルなボイストレーニングの考え方

閃いた女の子

専門用語はほぼ出てきません

昔は僕も“権威性”を示すために、色々専門的な話をSNSなどで発信してきました。

が、「科学的根拠に基づいて…」「音響学を…」とか言いたがるトレーナーが増えてきて、(僕の肌感として)その結果、最近また拗らせ隊が増えてきたな、という印象です。

実際に冒頭でも書きましたが、「これはこれこれこういう意図でなになに筋を意識すればいいんですか?」みたいな、いちいち理屈を知りたがる人に限って発声は拗らせています。

なのでそんな時は「そんなん考えんでいいからとにかく声出してみ?」と言います。

「知る」必要はさほどありません。「できる」ようになることを目指しましょう。

意識することはこれだけ

昨今、ちょっとググって知ったのが嬉しいのか、「フリップが…」「ライトチェストが…」とかって言いたがるトレーナーが増えましたが、僕の中ではそれらは発声の改善に何の役にも立ちません。

なぜなら「フリップだからこんな練習」「ライトチェストだからこんな練習」というものは混じりっけなし、純度100%の机上の空論だからです。

そもそも発声の状態は一人一人全く違います。当然「なぜフリップするのか」という原因もそもそも違います。

このそもそもが完全に無視された理論です。何の役にも立ちません。

トレーナーの立場で生徒さんの発声をチェックする際は3つ。

息は強いか弱いか
声門閉鎖は強いか弱いか
母音は適切か(ワイド、ナロー、志村、えなり、モーモーさん、など)

このジャッジはググっただけのなんちゃってトレーナーではなく、一流のプロにしかできません。

なのでトレーニー、自主練をされる場合は、シンプルに発音(母音も子音も)がちゃんとできているかその状態で音程が取れているか、だけでOKです。

このInstagramの例の「Bub」というエクササイズで言うと、発音の仕方が変わるということは発声の状態が変わるということです。

「ばあー」と「あ」が長くなると閉鎖が強くなる(=プルチェスト)、どこかで支えきれなくなって裏返る(=フリップ)
「B」の破裂が弱くなると息が抜けやすくなる(=ライトチェストorフリップ)
「B]が「P]に聞こえる(=ライトチェスト)
トップの音で音程が少し低くなるのは声帯を分厚くなりすぎている(=プルチェスト)

どうでしょう?

「ライトチェストタイプはこう」とか「フリップタイプにはこう」とかじゃなく、「Bub」が言えて音程が合っていりゃおk、じゃないですか?

ボイストレーニングに必要なのは、知識ではなく、正しく発音できているかをしっかりと聞く「耳」です。

あなたのトレーニングは、考え方からすでに違う方向に行ってませんか?

まとめ

まとめ

何ボイスとか何タイプとかいりません。余計に拗らせるので
トレーナーが気にするのは息、閉鎖、母音(もちろん音程も)
トレーニーが気にするのは発音と音程

やること少ないでしょ?

わざわざ色々増やしてませんか?

最後までお読みいただきありがとうございました。
ジウコトモニタ

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